阿久津 理絵さん 29歳
Profile
笠間市出身。 茨城県立水戸第一高等学校卒業後、茨城大学大学院教育学研究科へ進学し、2010年から小学校に勤務し始める。2016年から筑西市の劇団明野ミュージカルに所属し、女優としても活動中。
朝6時半に家を出て、帰宅は夜の20時〜21時という阿久津さんは、小学校の先生です。この職業を選んだ理由を聞くと、「はじめは教員になることが第一希望ではなかった」という驚きの答えが。「母が先生で、身近な職業ではあったけど。最初はデイズニー映画や劇団四季が大好きでミュージカルの役者を目指していました」
挫折から始まった教員生活
「大学院生の頃まで東京でオーディションを受けていたけど、結局大きい劇団には入れませんでした。当時は挫折を味わって、舞台を観るのもつらくって。いまより就職が難しい傾向もあって将来が不安だったので、他に道がないかと思って教員に。
でも、1年目の担任の子たちが本当にありがたいくらい可愛かったんです。特別子どもが好きというわけではなかったけど、担任した生徒はめっちゃ可愛い。『先生好き!』って向かってきてくれるので、エネルギーをもらいました」
プライベートでの楽しみもあり、うまく仕事との両立ができているそう。「2016年から筑西市の明野ミュージカルという劇団に入って、去年は『シンデレラ』の主役をさせてもらったんです。子どもたちに『どんな形で夢が叶うかわかんないから、すぐに叶わなくてもダメじゃないよ』と素直に言えるようになりました」
生活も安定したからこそ、好きなことに打ち込めるようになったと言います。けれど、忙しい教員生活との両立はどうしているのでしょうか。「体力的に大変なこともあるけど、稽古行くために効率上げるぞって前向きに仕事してますね。役や物語から、大変な境遇でも頑張ろうと影響を受け、仕事にも還元できてます」
教員生活自体にも、忘れられない思い出が。
「初めての卒業式の1週間前に東日本大震災が起きたんです。ライフラインも止まる中、先生たちみんなが荒れた体育館から飾りを運んで『図書館で卒業式をしよう、何が何でも立派に送り出すんだ、一生に一度の晴れ舞台なんだから』って。その奔走する姿にもう号泣して、なんて素敵な仕事なんだろうと。小学校って、一番守られてる安心感のある時代。中学生になると人間関係こじれることも、ときには死んじゃいたくなることもある。それでもこれから頑張るんだぞっていう大事なセレモニーだから、卒業式はとっても特別なものなんだって感じたんです」
そんな阿久津さんが初任校を離れ別の学校に移る際は、卒業した担任生徒が集まって、1人ずつ手紙をくれたそう。「もう私の身長をみんな抜いてて。成長を見届けられる、人生に関わらせてもらえる仕事なんだなってすごく嬉しかった」
大人でも子どもでも 相手の個性と自分らしさ、 どちらも大事に
教員歴9年の阿久津さんでも、つねに迷いはあると言います。「毎日予測不可能で、同じ子でも日によって全然違います。どんな子にもとにかく寄り添って、厳しいことを言ったり、本当につらそうなときは優しくしたり。その子に合うコミュニケーションはやってみないとわかんないですね」
それが対人関係の面白さであり、難しさでもあります。「出会った以上、好きでも嫌いでも認め合うのが社会で生きていくことだよって伝えたいんです。みんなを好きになれとは言えないし、『苦手な人もいて当然だけど、それでも最低限支え合うのが大人になるってことだよ』って。
どんな人でも大事にしていこうねって伝えたいので、最近はセクシャルマイノリティのことも伝えています。成長する中で自分は他の人と違うと気づいたとしても、生きてて大丈夫だって思ってほしいから、そのための種まきをしている感じ」
認め合い、ともに生きるということ。大人の社会でもうまくいかないことがありますが、子どもたちに教えるのは難しくないのでしょうか。
「でも案外、子ども同士のコミュニケーションでうまくやってくれますよ。口下手な子にさりげなく『何か言いたいの? 言ってきてあげよっか?』って聞いてくれる子もいるし。男の子でもピンクが好きでいいんだよって言うと、安心してくれる子もいます」大人が教えるばかりではなく、子どもたちから大人が学ぶべきことも多いのかもしれません。
阿久津さん自身が人と接するのに疲れてしまうことはないんですか、と尋ねてみると、「ひとりの方が好きなタイプではあります」とのこと。「もともと友達は少なくて、付き合いはあんまり良くなかったかも。若い頃って、誰かといると合わせなきゃって焦りもあると思うんです。でもいまは自分の好きなものが軸にあるから、誰といてもちゃんと自分は自分っていう気持ち」
人との関わりを楽しむには、まず自分の好きなものを見つめることが大切なようです。 「私はフィギュアスケートの羽生選手が大好きで、最近ひたちなかのスケート場に通っています。そこではスケートが好きって共通点があるから、名前すら知らなくても話せるんですね。そうやって好きなことを軸にあちこちで居場所ができて、茨城の人のあたたかさも感じられています。市町村をまたぐ異動があっても、県内どこでも生きていこうって気持ちになれますね」
最後に理想の将来像を伺うと、「いまが続くこと。現状維持するのだって努力がなきゃできないわけですから」と穏やかながら芯のある答えをくれました。「昔はオーディションでも自信がなかったけど、舞台に立
ってみたらお客様に喜んでもらえるってわかった。だから必要以上に自分を卑下せず、ありのまま。こんな人生私にしかできない、みんなそれぞれがそうじゃないですか?子どもたちも私も好きなものは好き、と生きられたら」 「人生は舞台、人はみな役者」という言葉があります。阿久津さんは幾人もの生徒の舞台がハッピーであることを祈りながら、教壇に立っているんだなと胸があたたかくなりました。
(茨女レポーター:外間 花怜)