渡辺 加奈子さん 29歳
Profile
日立市出身。 旅館・ホテル業を営む家に生まれ、4代目女将として育つ。茨城キリスト教学園高等学校在学中にアメリカへ短期留学、 日本ホテルスクール在学中にオーストラリアへ長期留学、ホテルマネジメントを学ぶ。在学中から都内有名ホテルでの経験を積み、"一度は行ってみたい憧れの湯宿"1位を獲得した「株式会社月のうさぎ」へ入社するも、東日本大震災を受けて茨城へ帰郷。自然災害と隣り合わせである日本に危機感を覚え、23歳で海外で働く経験を積むことを決意、24歳でカンボジアに移住。 WakaNa shop(現アメージングカンボジア)の立ち上げに携わり、2年目に店舗を黒字化、3年目に売上を10倍に。現在は店舗運営・商品開発・ブランディングに従事、2018年5月に2店舗目をオープン。
世界の人々にカンボジアの可能性を 知ってもらいたい
カンボジアの首都プノンペンにて“アメージングカンボジア”を立ち上げ、ゼネラルマネジャーとして働く渡辺さん。
“アメージングカンボジア”は、さまざまな村・地域の農家、生産者、メーカーさんが想いを込めて作った製品を集め厳選し取り扱う、お土産&セレクトショップです。
「カンボジアの“上質”そして作り手さんの“情熱”を、商品を通して世界に発信することで、たくさんの人々にこの国を知ってもらい、誇ってほしい。そんな想いを込めて、日々ブランド作りをしています。」
キッカケは”キラキラした 大人になりたい!“という想い
旅館・ホテル業を営む家に生まれたことから宿泊業がいつも身近で、物心ついた頃には「女将になる!」と周りに公言していた渡辺さん。将来は自分が理想とする宿泊施設を開業することが夢だと言います。高校卒業後にホテルマネジメントが学べる専門学校へ進学、その上京初日、降り立った品川駅で受けた衝撃が今でも忘れられないそうです。
「同じ時間帯に、同じような身なりで列をなして歩くサラリーマンの大群にショックを受けました。楽しそうに見えなかったのと、何よりも、10年後の自分に重ねられなかったんです。私は、“楽しい!”と思って夢中でやっていたことが仕事になってしまうような、仕事が“目的”ではなく“手段”になるような“キラキラした大人になろう!”と、強く決心したのを覚えています。」
”世界へ出よう!“ キッカケは東日本大震災
「東日本大震災で実家の一部が損壊、多くの被災者・避難民の方々が実家のホテルを利用しました。その時に初めて、実家、そして日本という場所が自然災害や原発のリスクと隣り合わせであることに気づいたんです。海外での経験を積み拠点を増やすことで、将来の自分の可能性や選択肢が増やせるのではないか、と思うようになりました。」
さらなる英語力を身につけ海外で働く切符を手にしようと渡辺さんが始めたのは英語講師。「教わるより、教えた方が骨の髄から英語力が身につくと思ったんです。」それと同時にビジネス英語を学びに東京の英語学校に生徒として通う中で、今の会社の創業者である女性に出会い、共にカンボジアでお店を立ち上げることになったそうです。
カンボジア行きを決めたもう一つの理由は、“本当に自分が実家を継承したいのか”に迷ったこと。「“女将になりたい!”と言うと、両親が喜んでくれたことが幼心に嬉しくて、今まで“本当に自分がやりたいこと”に向き合えていなかったのかもしれないと感じました。本来の自分と向き合わずに、“誰かのために”という想いで何かを決断してはいけないと思ったんです。なので一旦レールから外れようと。」
東南アジアで 働くことの葛藤
「正直、海外で働く=“ニューヨークやロンドンのビジネス街を、ヒールを履いて闊歩するビジネスウーマン”を想像していたので(笑)、東南アジアで挑戦することには葛藤もありました。ですが、それらの先進国ではすでに、優秀で活躍している日本人が大勢います。それであれば、あえて未開拓&途上国を選ぶことで、結果さえ出せれば面白い存在になれるかもしれないな、と思ったんです。」
表舞台を支える 裏方でありたい
カンボジアで新しいブランドを築き上げる上でのやりがいは、カンボジア人が楽しんでくれる現場を自らが作り出せることだそう。「私が作り上げたステージで、主役であるカンボジア人が思いっきり輝くことにこの上ない喜びを感じます。
スタッフでも、生産者さんでも、お客さんでも、アメージングカンボジアというブランドの表舞台に立った時、彼らが誰よりも美しく輝き、最大限のパフォーマンスを出せるよう、最高の舞台演出ができる裏方として支えることが、外国人である私だからこそできる役割であり、最高のやりがいです。」
自分の価値観を外して 人と向き合うことが大事
「カンボジアで働き始めた当初は辛いことの連続でした。売上は低迷、マネジャーとして結果を出せないことに対する焦りから、カンボジア人スタッフに強く当たってしまったこともあります。極めつけは、一番期待していたマネジャー候補のスタッフがお店のレジからお金を持ち逃げしてしまったことでした。」
将来を期待していた男性スタッフが、突然レジからお金を持ち出し盗んでしまったそうです。「カンボジアでは警察はタダでは動かないことが多く、いわゆる“袖の下(賄賂)”が横行しています。仮に警察に届け出たとしても逆に支払い額の方が多くなることも。助けてもらうことは期待できません。」
渡辺さんは、自分の経験して来た日本の価値観をむやみに押し付けてしまったことにより、カンボジア人との摩擦が起きて事件が起きてしまったのだと語ります。「この事件のおかげで、自分の価値観を取っ払って物事を見聞き・判断し、人と向き合うことが、いかに海外で働く上で重要かを学びました。どれだけ辛かったとしても、振り返ればそれは、海外で働く上で必然的に学ぶべき出来事だったなと感じます。もう一度経験するのは無理ですが(笑)」
渡辺さんは2019年から、カンボジアだけでなく実家のビジネスにも従事し、世界に拠点を数カ所持つような働き方を実現したいそうです。
(茨女レポーター:川井 真裕美)