滑川 友理さん 31歳
Profile
水戸市出身。 特別養護老人ホームで働く傍ら、茨城県人権教育講師(LGBTを含むセクシュアルマイノリティ講師)として活動を開始。自身もレズビアンであることを公表し、茨城県内の教育委員会や自治体等で多数の講演を行う。2017年11月に茨城県初のNPO法人セクシュアルマイノリティ団体『RAINBOW茨城』を設立。LGBTを含むすべての人が暮らしやすい地域を目指し、精力的に活動中。
LGBTについて
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略。ここで表記する「LGBT」とは、LGBTを含むセクシュアルマイノリティ全般を包括した意味で使用
活動を通して、まずは LGBTのことを知ってほしい
NPO法人『RAINBOW茨城』代表の滑川さんは、昼は介護福祉士、夜はDJと多くの顔を持つレズビアン。
カッコいい外見とは裏腹に「家庭的なボブの女の子が好きです(笑)」と、恋愛する一人の女性としてはにかみます。ボーイッシュでちょっぴりファンキー。だけど、周りの人がついハッピーになってしまう、チャーミングな笑顔が印象的です。
滑川さんが立ち上げた『RAINBOW茨城』は、LGBTを含むすべての人がありのままの自分で暮らせる地域社会を目指すNPO法人。シフト制の仕事の合間をぬって県内全域で講演活動、悩みの相談受付や交流活動を行っています。
そんな滑川さんは、「活動を通してまずはLGBTのことを知ってほしい」と話します。 「理解してほしいとかじゃなくて、そういう存在が普通に生活しているんだってこと。なおかつ、すごくハッピーに暮らしている人もいるんだってことを知ってほしい。LGBTって偏見が生まれやすい領域だからこそ、ちょっとの知識がないだけで、誰かを傷つけたりすることもあるんです。正しい知識を伝えていくことで、そんな悲しいパターンを減らしたいんです」。
講演活動を始めたのは、 レズビアン仲間の死がきっかけ
滑川さんが啓発活動を始めたのは、レズビアン仲間の女性・Yさんの死がきっかけでした。
失恋をきっかけに精神的に追い詰められていたYさんは、飲食店の店長という立場もあり、周りに自分の性のあり方を打ち明けることができなかったそうです。数少ないレズビアン仲間であった滑川さんと些細なことから疎遠になり、Yさんは、失恋や仲間を失った苦しみを誰にも相談することができず、自ら命を絶ってしまったそうです。まだLGBTという言葉もできていなかった時代の出来事でした。「失恋とかで心理的に追い詰められちゃうと、どうしても周りに相談したくなりますよね。でも、当時は言えるような環境が整っていなかった」。
例えば、誰かにカミングアウトできたとしても、「一緒に治していこうな」と、見当違いな言葉を返されるケースもあるそうです。悪気はない、しかし無知ゆえの発言をきっかけに相手との関係が崩れてしまう。そんな経験は、LGBTのケースではなくても誰にでもありうるトラブルではないでしょうか。
滑川さんの語り口から、LGBTは周りに「いない」のではなく「言えないから、いないように見えるんだ」と気づかされます。仲間の死を無駄にしないために始めた啓発活動。それと同時に、クラブでのDJ活動でもレズビアンの存在を積極的にアピールしていきました。
好きな人が女性っていう だけで、何も変わりない
「HIPHOPの街と言われる水戸のクラブでは、男性からのあたりはすごく強かったです。HIPHOPは基本的に同性愛者はタブーなので、「俺の女取んなよ」って叩かれたりとか。でもそういう時は、「取らないよ」ってとにかく笑顔で接します。攻撃に応じず、笑顔で接することを続けていくと、「レズビアンは友達も女なわけで、俺の女を取ろうとしている訳じゃない」って理解してくれるんですよね。
ただ好きな人が女性っていうだけで、何も変わりない。
そう理解してくれる人がどんどん増えていくのがおもしろくて。最初は「レズとか無理」って言ってた人達が「よ、なめっち!」ってハイタッチしてくれたりとか(笑)。性のあり方に関わらず、人間として受け入れてくれたことがすごく嬉しかったですね」
異性愛者の人との 懸け橋になりたい
滑川さんが通う水戸市のクラブ「VOICE」には、ギラギラとした空間の所々にレインボーフラッグ(LGBTコミュニティを象徴する旗)が置かれていたのが印象的でした。
「私はLGBTと、異性愛者の人を繋ぐ存在になりたいです。無知のまま生活していると、異性愛者の人は当事者と絡む機会ってあまりないですよね。だからこそ、私は異性愛者の人に向けての講演を続けていきたい。DJも一見無関係だけど実は同じで。クラブってどうしても男女のチャラチャラしたイメージがあると思うんですけど、そんなことよりも、職業も年代もバラバラの人との出会いや交流があって。クラブは宝箱だと思ってます。その中で、皆と楽しみながらDJという形でLGBTを発信できるというありがたい場所です。思う存分自己表現が許される場所です(笑)」
「当事者向けのコミュニティづくりもすごく大事ですけど、それと同時に、今の社会では多数派といわれている異性愛者の人にも理解してもらわないと、何も新しいものは生まれないかなって。だから私は異性愛者の人との懸け橋になりたい。とりあえず水戸に新しいレールを敷けたらなと。表に出ることで出る杭打たれることはもちろんありますけど、叩かれる覚悟はできているので(笑)」
自らLGBTのアイコン的存在となり、茨城の多様性を切り開く滑川さん。滑川さんのチャーミングな笑顔は、性のあり方に関わらず幸せな生き方ができるんだという勇気を与えてくれます。
(茨女レポーター:檜山 加奈)